国際ホテルジャーナリスト 小原康裕が訪れる世界のリーディングホテル

Mandarin Oriental, Bangkok
 

そこには宿泊客に感動を与えた数々の“伝説や逸話”が勲章として残されている。

 
 1980年代、米国金融雑誌「Institutional Investor」の世界ベストホテルランキングで、何年にもわたり連続1位に輝いた伝説的名門ホテルである。1876年に創業以来、タイ・バンコクを代表する迎賓館的役割を担ってきた「Oriental Hotel」が前身である。1974年にマンダリン・オリエンタルグループ傘下に入った後も、誇りの“オリエンタル・ホテル”の名を冠していたが、2008年に現在の「Mandarin Oriental, Bangkok」に改称している。(以下、MO/BK)

 
 オリエンタルの歴史を彩るのが、このホテルを愛した文豪たちである。サマセット・モーム、ジョセフ・コンラッドなど数多くの作家がホテルに滞在し、ここで執筆を続けた。コロニアル風の旧館オーサーズ・ウィングは文豪たちに敬意を表し“作家の館”と称され、2階にはサマセット・モームなど彼ら作家4人の名を冠したスイートが残されている。書棚に並べられた文豪たちの作品に思いを馳せて「Author's Lounge」で頂く優雅なアフタヌーンティーは、実に贅沢な時間の過ごし方だ。また、隣接するガーデン・ウィングのトップフロアにはフレンチの「Le Normandie」があり、正統派のフランス料理を堪能できる。


 
 MO/BKは1976年に最新の本館リバー・ウィングを加え、35室のスイートと358室のゲストルームを擁すアジア屈指のホテルである。民族衣装のドアマンに導かれ本館ロビーに入ると、天井から梵鐘のように釣り下がる数多くのタイ・スタイルの優美な大風鈴に目を奪われる。ロビーラウンジからチャオプラヤ川に向かう屋外回廊の右手にはオールデイダイニング「The Verandah」とメインバー「The Bamboo Bar」が並び、2階部分にはシーフードの「Lord Jim’s」がある。一方、左手には緑豊かな庭園に大小二つのスイミングプールを用意している。河畔のテラスには観光客に人気の「Riverside Terrace」があり、そこからホテル専用の渡し船が対岸に連絡している。渡し船が向こう岸に着くと、伝統的タイ料理の「Sala Rim Naam」があり、毎晩披露される伝統のタイ舞踊が好評だ。また、100年前のチーク材で家屋を復元したスパ「The Oriental Spa」は技術の評価と共に人気が高い。


 
 MO/BKは先の大戦中、日本の帝国ホテルが運営を委託された時期もあったが、現在に至るまで世界のホテリエがそのサービスの高さを認めるホテルだ。そこには宿泊客に感動を与えた数々の“伝説や逸話”が勲章として残されている。その道のプロが絶賛する究極のホスピタリティーが今も生きる、世界でも数少ない名門ホテルと言えよう。


民族衣装のドアマンがゲストを迎えるホテル正面エントランス

チャオプラヤ川を望むスイミングプール

オリエンタルの原点である旧館オーサーズ・ウィング

「Author’s Lounge」のガーデン側に面したティールーム

100年前のチーク材で家屋を復元したスパ「The Oriental Spa」のレセプションデスク

オールデイダイニング「Verandah」のテラス席

伝統的タイ料理レストラン「Sala Rim Naam」。毎晩、伝統のタイ舞踊が披露される

「Somerset Maugham Suite」の優美な玄関前ホワイエ

伝統のチーク材で仕上げた重厚なバスルーム