国際ホテルジャーナリスト 小原康裕が訪れる世界のリーディングホテル

Raffles Hotel

 

サーキーズ兄弟の情熱を掛けた「アジアで最高のホテル」の夢。
その独自の個性と存在感は今後も色あせることなく輝き続けるであろう。

 
 世界でも稀にみる強烈な個性と独自の存在感を持ったホテルである。この秘密はラッフルズをはじめとして黎明期におけるアジアのホテル建設に心血を注いだサーキーズ兄弟に行き着く。
 サーキーズ四兄弟はペルシャのイスファハン出身のアルメニア人で、1885年にはペナン島・ジョージタウンにイースタン&オリエンタル・ホテルを開業している。当時「スエズ以東最初のホテル」というキャッチフレーズで広告を出し話題を集めた。続いて87年に次男のティグラン・サーキーズが中心となり、シンガポールの地にラッフルズを開業させた。わずか10室のバンガロー・スタイルでの出発であったが、99年には現在の原型となる3階建ての本館を完成させ、シンガポールを代表する繁栄の基礎を築いた。

 
 ラッフルズは第二次大戦時に日本軍によって接収され「昭南旅館」と名称変更されたが、戦後は再び名門ホテルとして復活している。その後1989年に全館を閉鎖して徹底的な改修がなされ、2年後の91年に以前と同じ全室スイートルームの眩い気品を備えたホテルとして再オープンした。正装した威厳のあるドアマンに導かれ正面エントランスから入ると美しい生花のアレンジメントが出迎え、白亜の大理石の床と3階まで続く吹き抜けのロビーに心を奪われる。左右にはクラシカルで重厚なレセプションとコンシェルジュのデスクがあり、正面には歴史を物語る階段が続いている。ゲストの目線と昂揚感を最大限に利用し、その計算し尽した美意識が織りなす造形レイアウトは見事と言える。


 
 ラッフルズには伝説的なレストランやバーがある。「Tiffin Room」はホテルで一番古い歴史を誇り1899年より続くカレー料理が特色だが、最近では本格的なイングリッシュ・ハイティーが大人気で予約なしでは入れないほどだ。ちなみに“Tiffin”とはインド・パキスタン地域で“昼食”という意味である。「Long Bar」はシンガポール・スリングで名を馳せたバーで、中国人のバーテンダーが女性に飲みやすいカクテルとして創作したものだ。正統派フレンチの「Raffles Grill」や隣接する「Writers Bar」もロビー階にありお勧めである。そのほか3階には「Raffles Amrita Spa」があり、中を抜けていくと途中左手にジムを見てルーフトップのスイミングプールに行き着く。またホテル背後の敷地には改修後に大規模なショッピングゾーンが新設され、ギフトショップをはじめ多くのブティックやレストランで楽しめる。また、ここにはラッフルズの歴史を紹介する「Raffles Hotel Museum」も併設されている。


 
 ラッフルズはサマセット・モームをはじめとして多くの小説や物語の舞台となり、つい最近も日本のNHKドラマの重要なシーンとして登場している。サーキーズ兄弟の情熱を掛けて目指した「アジアで最高のホテル」の夢は実現し、シンガポールのランドマークとしてその独自の個性と存在感は今後も色あせることなく輝き続けるであろう。


ラッフルズの顔ともいうべきターバンを巻いたドアマン

歴史の重みを感じさせるクラシカルなレセプションデスク

本館パームガーデン側にある目の覚めるような美しさの回廊

華やかな夕暮れ時のホテルエントランス

「Palm Court Suite」の贅沢なベッドルーム。ラッフルズの103室あるゲストルームはすべてスイートタイプである 

玄関ドアを開けるとすぐリビングルームが展開する

19世紀にタイムスリップしたような時が流れるベッドルーム

芝生の美しいパームコートから見渡すスイート棟

オープンエアのラウンジから望むパームコート

「Raffles Amrita Spa」内にあるリラクゼーションルーム

本館3階屋上に用意された穴場的存在のスイミングプール