国際ホテルジャーナリスト 小原康裕が訪れる世界のリーディングホテル

Le Bristol Paris

 

広大なフランス式庭園を中庭に持ち、
    マグノリアなどの木々が枝葉を広げるこの庭は、たおやかな親しみやすさを感じさせる。 

 
2011年の5月5日、パリの最高級ホテルやグランメゾン関係者にある衝撃が走った。これまでの5ツ星ホテルを超える新たなホテル格付けの最高位が創設され、フランス観光担当大臣によってこの日発表された。その名は“パラス”「PALACE」。最高の栄誉認定を受けた初のホテルは全フランスで8軒、パリで僅か4軒であった。ル・ブリストルはそのうちの一軒に認定された。ちなみにパリの他3軒はムーリス、プラザ・アテネ、パークハイアット・パリ・ヴァンドームである。

 
意外かも知れないが、フランスに5ツ星ホテルというものはつい最近の2009年まで存在しなかった。最高位は4ツ星デラックスというもので、09年7月のホテル格付け刷新の法改正で初めて5ツ星ホテルが誕生した訳だ。他方、これまでパリには“暗黙の了解”という形で7軒のパラスが存在していた。リッツ、クリヨン、ジョルジュサンク、ムーリス、プラザ・アテネ、フーケッツ・バリエール、そしてル・ブリストルの7ホテルである。今回の政府認定の“パラス”格付け誕生で、これまで複雑を極めていたパリのホテル序列の混乱は解消され、新規参入ホテルの評価を含めてすっきりとした形に収まった訳で、まさに歓迎すべき出来事である。


 
あらためてル・ブリストルを考察すると、高級ブランドが軒を連ねる華やかなフォーブル‐サントノレ通りに位置し、大統領官邸エリゼ宮に近い1925年創業の老舗名門であり、世界中のVIP層を顧客に持ち、ミシュラン3ツ星レストラン「Epicure」を抱えるホテルとして、まさにパラスの称号にふさわしい。ホテル正面玄関にはパリ造幣局で特別に鋳造されたゴールドのプレート「PALACE」が誇らしげに輝いている。広大なフランス式庭園を中庭に持ち、マグノリアなどの木々が枝葉を広げるこの庭は、たおやかな親しみやすさを感じさせる。これほど贅沢な空間はパリにもそうあるものではない。


 
ル・ブリストルの名称はホテルのホスピタリティーに特別のこだわりを希求した、18世紀の英国貴族で旅行家のブリストル伯爵に由来している。ホテルの創業者はレストラン事業で財を成したイポリット・ジャメで、フォーブルの地にあったジュール・ド・カステラーヌ伯爵の邸宅を買い取り高級ホテルとして営業したのが始まりである。当時のフォーブルはエリゼ宮がフランス大統領の官邸となり、馬具商のエルメスやクチュリエのランバンがブティックを開くなど、今日のフォーブル‐サントノレ通りの繁栄の基礎が芽生えていた。幾多の変遷を経てホテルは1978年にドイツのホテル運営会社のオトゥカー・グループに買収されている。現在はバーデンバーデンにあるドイツ最高峰の温泉保養ホテル、ブレナーズパークホテルやコートダジュールを代表する名門、オテル・ドゥ・キャプ・エデン・ロックなどと共にオトゥカー・ファミリーの一員となっている。


2009年に新設されたビストロスタイルのレストラン「114 Faubourg」内のエレガントな階段

「Le Bristol」のエスプリの効いた正面エントランス

中庭に向かう途中にある「Le Bar du Bristol」

2011年に新設された格付け「PALACE」の銘板が誇らしい

ホテル創業当時のエレベーターは今も現役だ

スターシェフ、エリック・フレション氏率いる「Epicure」の洗練された店内

暖炉の薪に火が入り開店の準備が整う。パリでいちばん予約が難しい店の1つだ

「Epicure」のエレガントなエントランス

レストラン「114 Faubourg」の店内

ホテルに住み着く可愛いマスコットの子猫「ファラオン君」

中庭に面して専用テラスが付く「Deluxe Suite」のリビングルーム

約90㎡の広さがあり、ルイ15・16世様式の家具に囲まれたスイートルームだ

中庭に面してメインダイニング「Epicure」から続く麗しき回廊

19世紀のヨット船室に迷い込んだ感覚になるスイミングプール

チーク材とガラス窓のレトロ感覚たっぷりで、良き時代のヨットをイメージしてデザインされた