国際ホテルジャーナリスト 小原康裕が訪れる世界のリーディングホテル

Hotel Sacher Vienna
 

一料理人が創作した菓子が礎となり、世界屈指の名門ホテルにまで発展した夢物語のようだ。

 
 ザッハートルテ「Sachertorte」はウィーンを代表する名物菓子の「トルテ」であり、世界で最も有名で高貴な“チョコレートケーキの王様”と称される。“会議は踊る”で有名なメッテルニヒに仕えた料理人の1人、フランツ・ザッハーが1832年に考案した菓子で、瞬く間にウィーン中に評判が広まっていった。後に次男のエドゥアルト・ザッハーは、76年に家具付きの高級メゾンとしてホテルを開業した。彼の死後、未亡人のアンナ・マリア・ザッハーがホテルの総指揮をとり、彼女の手腕の下、ザッハートルテの名声も相まって、ホテルは王侯貴族や外交官が宿泊する世界でも屈指の格式を持つホテルの一つとなっていく。


 
 ホテルザッハーはウィーン国立オペラ座の真後ろにある“フィルハーモニカー通り”と、ウィーンの銀座通り“ケルントナー通り”の交差する角の絶好の立地を誇る。2005年にホテルは大改修を施し、屋上部にモダンなデザインの2フロア分を増築したが、古き良きザッハーを愛好するファンから猛反発を受けた。それだけ目立つ建物であり、市民に愛されたホテルであるが故のエピソードだが、現在はむしろ周りの景観と調和した麗しき外観となっている。


 
 ホテルザッハーはスイートを含む全149室のゲストルームを擁すが、前述した大改装の際に一部のスイートを除き、多くはコンテンポラリーなデザインを採用したモダンな客室となっている。ホテルのエントランスは小規模だが、館内の華麗な装飾に目を見張る。とした威厳あるコンシェルジュデスクから奥に進むとホテルの核心部と言える豪華なラウンジに導かれる。ホテル創成期の面影を残す気品に満ちた重厚な佇まいである。ラウンジ奥にはロイヤルブルーの色調で統一された「Blue Bar」がありお勧めだ。レストランではオペラ座に面した伝統ウィーン料理の「Restaurant Rote Bar」が人気で、こちらはルージュの官能的な色調で彩られている。メインダイニングはアンナ・ザッハーの名を冠した「Restaurant Anna Sacher」である。渋い木目とグリーンで統一した壁面が醸し出す雰囲気が何ともエレガントだ。そのほか5階には「Sacher Spa」を用意し、地元のセレブリティーの高い評価を受けている。


 


 
 ザッハートルテで絶大な人気を博しているだけに、カフェの「Café Sacher Wien」は世界各国からの観光客で溢れている。一料理人が創作した菓子が礎となり、世界屈指の名門ホテルにまで発展した夢物語のようだ。やはり、ザッハートルテあってのホテルザッハーなのか? なにしろホテル開業より50年近く前に菓子は完成していたのだから。


ウィーン国立オペラ座の真後ろにある“フィルハーモニカー通り”に建つ威風堂々としたホテルファサード

エントランスホールに位置する凛とした威厳あるコンシェルジュデスク

ホテルエントランスに立つ赤い制服のドアマン

ホテル館内にある優雅な階段

ルージュの官能的な色調で彩られた伝統ウィーン料理のレストラン「Restaurant Rote Bar」

マダム・アンナ・ザッハーの名を冠したメインダイニング「Restaurant Anna Sacher」

地元ウィーンのセレブリティ―の評価が高い「Sacher Spa」のレセプション

ビューバス・タイプの明るいバスルーム

トップフロアにある「Penthouse Suite」のテラスから望むウィーン市内の眺め