2011年10月18日、突然リッツ パリ休業のニュースが世界に発信されホテル関係者を驚かせた。翌12年夏より2年3カ月という異例の完全休業で、“前例のない改装”が理由だった。同年5月に発表された5ツ星を超える“新たな格付け”「PALACE」の認定からリッツが漏れたことに起因する措置であった。(HOTERES 2012年3月9日号、及び23日号の Vol.19、Vol.20参照)。これまでパリには“暗黙の了解”という形で7軒の「PALACE」が存在していた。リッツ、ムーリス、クリヨン、ジョルジュサンク、プラザ・アテネ、ブリストル、そしてフーケッツ・バリエールの7名門ホテルである。そのなかでも筆頭格を自認するリッツが、フランス観光開発機構及び観光庁の審査認定から外されたことは、オーナーであるモハメド・アルファイド氏にとって耐えがたい屈辱であったと推測される。
去年2016年6月、新生リッツ パリはヴァンドーム広場にその栄光の扉を再び開いた。大改修を開始してから実に4年の歳月が経過していた。新生リッツ パリは建物外壁も綺麗に修復され、隣接するフランス司法省の黒ずんだ外壁との対比が象徴的である。筆者にアサインされた部屋はリッツを代表する「Coco Chanel Suite」で、シャネルの写真や化粧机、シノワズリーの屏風などフェミニンな空気が流れるスイートだ。ベージュを基本と室内は気品に満ち、窓からはヴァンドーム広場の壮麗な佇まいを望む。ここはシャネルの美意識が息づく特別な“家”とも言える。
リッツ パリで大きく変わったのは、「Ritz Club Paris」内に新設された「CHANEL au Ritz Paris」だ。シャネルとリッツの深い信頼関係により、ホテル内に誕生した世界初の美の殿堂である。エレガントなトリートメントが話題になり早くもセレブリティの注目を集めている。中庭テラスも大きく変更され、ニコラ・サル氏が率いるメインダイニング「L’Espadon」と人気のバー「Bar Vendôme」にそれぞれ開閉が出来るドーム型天井のテラス席を設けた。さらに、リッツの顔でもある麗しき中央回廊に「Salon Proust」が新設された。大作“失われた時を求めて”のマルセル・プルーストに捧げたサロン・ド・テである。
今回の改装で特筆すべきは、創業時からの歴史的遺産に敬意を払い繊細な作業が遂行された。家具や調度品は一切売りに出さず、情熱あふれる最高の職人たちにより修復がなされたことである。“世界の王族が邸宅に求める洗練と快適さを提供するホテル”。セザール・リッツが開業時に掲げたビジョンだが、1898年に創業して以来、王侯貴族や世界の著名人に愛されてきたリッツ パリ。これらのレガシーを大切に継承し、次世代に夢を届けるホテルとして華麗なる復活を成し遂げた。