国際ホテルジャーナリスト 小原康裕が訪れる世界のリーディングホテル

Villa San Michele

 

フィレンツェの中心部から車で20分の郊外、
市街地を見下ろすフィエーゾレの小高い丘の上にヴィラサンミケーレは建つ。

 
ホテル建物の起源が15世紀初頭のフランシスコ派の修道院まで遡ると言えばビックリするであろう。さらに正面ファサードは、ルネッサンスの巨匠ミケランジェロの手により設計されたと聞けば尚更のことである。フィレンツェの中心部から車で20分の郊外、市街地を見下ろすフィエーゾレの小高い丘の上にヴィラサンミケーレは建ち、その重要文化財にも指定されている白亜の歴史的ホテルがゲストを温かく迎え入れてくれる。館内随所に見られる内装に施された彫刻、壁や天井に描かれたフレスコ画、見事なアンティーク家具の数々は壮麗で優雅な雰囲気に満ちている。ゲストはあたかも有名な大聖堂や美術館に居るような錯覚を感じ、そこに悠久で孤高の美しさを見出すことができる。


 
 館内に一歩踏み入れるとレセプションデスクがあるが、その荘厳な雰囲気に驚かされるであろう。実にこの空間はかつての礼拝室であり、一段高い所にある祭壇と隣接する事務系のデスクが違和感なく一体化され、天井から下がる豪華なシャンデリアと共にその室内レイアウトの妙に感服させられる。館内を奥に進むと明るいトップライトの大広間に辿り着く。ここはバー・ラウンジ「The Cloister Bar」で、朝食時にはビュッフェの幅広い料理が並ぶ空間にも利用されている。さらに隣にはキリストの「最後の晩餐」のフレスコ画が残されているダイニングの別室もある。ラウンジの先にはフィレンツェ市街の圧倒的な景色を一望できるメインダイニング「The Loggia」がある。固定のガラス窓はなく、半オープンエア方式で回廊を利用した気持ちの良いダイニングだ。ここでは食とワインの聖地、トスカーナの極めて質の高い豊穣の料理を楽しむことができ、宿泊客以外でも多くの食通が訪れている。


 
ホテルは21の客室と25のスイートを有するゆったりとした客室構成だ。スタンダードの客室は主に旧修道院の本館にあり、裏手の広大な芝生の庭園にはレモンやオリーブの木々、そしてバラが咲き乱れるイタリア式庭園を散策できる。庭園から丘の上にある温水プールに向かって階段状にテラス付きジュニアスイートが並んでいるが、すべて建物は蔦に覆われていて景観を損なわぬ配慮がなされている。反対側の山の斜面にはフィレンツェの市街を望む専用ガーデンが付随したスイートヴィラが佇んでいる。夕暮れ時、周囲がオレンジ色に染まり遠くドゥオーモやベッキオ宮殿が浮かんで見える景色は息をのむほどだ。


 
ヴィラサンミケーレは幾多の歴史的変遷を経て、1982年よりオリエント・エクスプレス・ホテルズ社「Orient Express Hotels Ltd」によって運営されている。またリーディングホテル「LHW」の加盟ホテルとして、コモ湖のヴィラデステと共にイタリア最高のヴィラホテルとして高い評価を得ている。郊外の立地ではあるが足の便も良く、市内中心部のレプッブリカ広場までメルセデスのワゴン車による無料の送迎サービスがあり、筆者としても是非訪れて欲しい珠玉のホテルの一つとして推薦したい。

 
 

正面ファサードはイタリアルネッサンスの巨匠ミケランジェロの手により設計された。
現在はイタリア政府保存委託建造物(重要文化財)に指定されている

「最後の晩餐」のフレスコ画が残されているダイニング別室

まるで中世の僧院にタイムスリップしたかの光景だ

フィレンツェ市街を一望できるメインダイニング「The Loggia」。かつては僧院の回廊であった場所だ

4つあるヴィラ・スイートの1つ「The Garden Suite」のベッドルーム。約75㎡の広さがあり、フィレンツェ市街を望む専用ガーデンが付随する

年代物の絵画が掛けられたクラシカルなリビングルーム

ベッドルームからリビング方向を見る

庭園上にはフィレンツェ市街を望める温水プールが用意されている